the onishimemo

iPhoneの名前

街にいると色々なネットワークを拾う。よく見かけるネットワーク名は、「7SPOT」、「Osaka_Free_Wi-Fi」、「0000docomo」…そして、「○○のiPhone」。

iPhoneでインターネット共有の設定をオンにしていると、そのiPhoneの名前が接続可能なネットワークとして周囲に表示される。iPhoneの名前は自分で決めることができるんだけど、デフォルトは「○○(持ち主のフルネーム)のiPhone」となっていて、これを変更していない人は意外に多い。

ところで、私は滅多なことがない限り自宅Wi-Fi以外のネットワークに接続することはない。だから、「こんなネットワークが飛んでいるけど接続しますか?」というダイアログが出ると即座にキャンセルボタンを押している。

その日、私は駅のエスカレーターに乗ってiPhoneを見ていた。もちろん駅にもネットワークは氾濫していて、また例の接続確認ダイアログが表示された。

今日このダイアログを何度見たことだろう。若干イラつきつつ、反射的にキャンセルを押した。やっぱり多少面倒でも外出のたびにWi-Fiをオフにするべきかもしれない。そんなことをぼんやりと考えながら画面を眺めていると、フェードアウトしていくダイアログに見慣れない文字が並んでいることに気付いた。

私はエスカレーターを降りた瞬間、端に寄って急いでWi-Fi設定の画面を開いた。

テザリングのアイコンが付いているので、誰かのiPhoneの名前だろう。それは分かる。「暴飲暴食」。持ち主はなぜこの名前にしようと思ったのだろうか。四字熟語にするにしたってもっと何かあるはずだ。何でこの四字熟語なんだ。命名の背景が気になって仕方がなかった。そして、そのヤケクソなセンスに脱帽した。あてられた私はエスカレーターのそばから暫く動けなくなった。

私のiPhoneはどうだろうか。

「恥ずかしいから凝ったことはしたくないけど、デフォルトのままは情弱みたいで嫌」という逆張りした結果がこれだ。

恥ずかしい。

急にとても恥ずかしくなった。変えよう。iPhoneじゃない、別の名前に。私も暴飲暴食のような、荒々しく気取っていない名前をつけるべきだ。

しかし、気取っていない名前を考えるのはかなり難しかった。というか、そもそも「暴飲暴食」の持ち主に倣って気取っていない名前をつけようとしている時点で、どんな名前をつけても既に気取っているのではないだろうか?

もっと自然体で命名するべきだ。つまり誰かに見てもらうために命名するのではなく、自分のために命名するべきなのだ。

「確定申告」。悩んだ結果、私は重要なToDoを登録することにした。これは見せる用ではない、100%自分用の命名だ。

名前にToDoを登録しても自分では見えないから意味がない。そんな風に思った人もいるだろう。しかし、我が家にはBlueToothスピーカーがある。このスピーカーは、機器を接続した時にその機器の名前を読み上げてくれるのだ。

「確定申告 接続済みです」

完璧だ。自然な命名は完了し、私のiPhoneは逆張りの呪縛から解放された。ついでにスピーカーに接続するたびに重要タスクをリマインドしてもらえるようになった。

スピーカーの「カクテイシンコク」を聞きながら、「暴飲暴食」の持ち主に敬意と感謝の気持ちを抱いた。彼・彼女のおかげで、私の逆張り意識を改めることができたし、便利なリマインダーまで手に入れることができた。

外出のたびにWi-Fiを切ろうかと考えていたけど、こんなに素晴らしい出会いがあるのなら切るべきではない。私のiPhoneには今日もどうでもいいネットワークの名前が浮かんで消える。

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